この記事では、「非流動性ディスカウント」について考察します
非流動性ディスカウントとは、「好きな時に売れない」、ということに対するディスカウントです
市場で取引できるけど薄商いで買手を見つけられない株式、非上場株式など自由に取引できない商品や譲渡制限株式を購入するときに、「好きな時に売れない」デメリットに対するディスカウントが発生します
非流動性ディスカウントを理解すると、なぜ他よりも高い利回りの投資商品があるのか理解できます
非流動性ディスカウントとは?
非流動性ディスカウントの定義
上場株式やETF、J-REITは取引所に上場されており、自分の好きなタイミングで現金化ができます。
一方で、非上場株式への投資や中途解約ができない匿名組合出資持分(ファンドへの投資額)については、現金化のタイミングに柔軟性がありません。たとえば、このような投資商品においては、たとえば以下のようなタイミングで現金化ができないです。
- 急な資金ニーズが発生したとき
- 投資ポートフォリオを見直したいとき
- なんらかの市場ショックやニュースを見て、これ以上は保有したくないと思ったとき
このようなタイミングで、投資期間において自由に現金化できない投資商品は投資リスクがあり、このリスクを埋め合わせるために、購入価格がディスカウントされます。このようなディスカウントを、非流動性ディスカウントといいます。
非流動性の種類
非流動性ディスカウントは、①譲渡制限がある、②取引市場がない(+中途解約ができない)、③取引できるが薄商いで買手が見つかりにくい、これらいずれかの場合に発生します
①譲渡制限がある
非上場株式の場合、株式の権利は会社法が認める範囲で条件を付与できます。ベンチャー資本政策においては、ある特定のタイミング(上場など)まで売ることができない譲渡制限株式が導入されることがあります。このような場合には、好きなタイミングで売れないことになりますので理論的にはディスカウントが発生します。
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②取引市場がない
投資商品を保有したとしても、そもそも売る市場がないケースでは、なんらかの経済危機が起きたときや発行体のネガティブなニュースが出たとしても投資家は逃げ出すことはできず、価値が下がるにまかせて保有をし続けるリスクを抱えることになります。このようなリスクを抱える見返りとしてディスカウントが発生します。
③取引市場があるが薄商いで買手がいない
一部の上場銘柄においては創業者または親会社が株式の大半を保有しており、ほぼ出来高がない株式もあります。このような場合には、株式を持っていたとしても買手を見つけるのが難しく、ディスカウントが発生します。
ここまで非流動性ディスカウントの種類についてまとめました。ここからはどうやってディスカウントされる割合が決まるのかを考えます。
非流動性ディスカウントはどうやって決まるの?
一般的な水準
非流動性ディスカウントは、アメリカの統計調査をもとにして、20-30%が一般的な水準とされています
すなわち、投資期間において自由に現金化できない商品は、上場株式やETFに比べて、20ー30%価値が低いということになります。
非流動性ディスカウントの統計調査
非流動性ディスカウントの統計としては、アメリカの上場株式と譲渡制限株式の価格差の統計から平均を算出したものが参照されています。
<非流動性ディスカウントの過去実績平均>
Maher(1976):35%
Moroney(1973):35%
Silber(1991):34%
バリュエーションの大家であるニューヨーク大学のダモダラン教授は、これらの調査をふまえ、サンプル間のデータのばらつき具合も考慮して、流動性ディスカウントは20ー30%が妥当としています。日本における投資実務でもこの水準が一般的に受け入れられています。
非流動性ディスカウントの考え方について考えました。ここからは、非上場/解約不可の投資商品の利回りについて非流動性ディスカウントがどのように影響しているかをまとめます。
利回りと非流動性ディスカウントのメカニズム
(計算例)左が上場投資信託、右が非上場・中途解約不可の投資信託
分配金が4、投資金額が100のETFがあるとします。この分配金利回りは4%です(図の左側)
同じ投資信託について、非上場・中途解約不可とすると、分配金が4で変わらず、投資金額は20%の非流動性ディスカウントを反映して80になります。この場合分配金利回りは5%です。
利回りの上昇分は、自由に現金化できない分のリスク相当を価格からディスカウントすることによって発生します。
投資対象を選ぶ際には、高利回りだからよいのではなく、現金化のしやすさについても考慮することが必要です。なぜならば、非流動性ディスカウントで安い価格になっている=リスクがあるということだからです。流動性のリスクを理解することなく利回りだけを見て投資対象を選ぶのは避けるべきです