TOB(株式公開買付)においては、いまの株価に「上乗せ分」をくわえて、高い価格で市場から買い集めることが一般的です。この「上乗せ分」がTOBプレミアムとよばれます。
なお、日本の過去のTOBプレミアムは30-40%の水準です
2020年7月、ファミマにたいする伊藤忠商事のTOB価格が低すぎるとして問題になりました。それ以降、伊藤忠商事のTOBにおいては買収先からの価格交渉を受け、価格の引き上げが行われています。
この記事では、伊藤忠の事例をもとに足元のTOBプレミアムのトレンドについてまとめます。
この記事のポイントは以下の通りです。
ポイント①TOBプレミアムの根源
- 株主の権利は持分がふえるほど強くなる
- TOBはふつうは経営権(50%超)を取得するために実行されるので、より強い権利=より高い価格となる
ポイント②TOBプレミアムの種類
- 経営権をすでに取得している案件と、これから取得する案件でTOBプレミアムの水準は違う
- 直近では大建工業のTOBプレミアムが経営権を取得する際のプレミアムとなる
ポイント③巨大企業も従うTOBプレミアムの水準
- 大建工業のケースでは、伊藤忠・大建工業との間の協議により、当初伊藤忠提示価格の2,450円から3,000円まで価格が引き上げられた
- 大建工業の経営陣としては、当初のTOBプレミアムでは市場(株主)が納得しないという理解のもと、およそ30%のプレミアムを求め続けた。また、伊藤忠としてもそれも受け入れざるを得なかった
この記事は、以下のような人向けです。
- 株式市場に投資をしている方
- TOBプレミアムについて知りたい方
ポイント①TOBプレミアムの根源
なぜ、TOBプレミアムは今の株価に上乗せして支払う必要があるのでしょうか?
こちらの記事でも解説していますが、TOBで獲得できる持ち株比率によっては、会社を支配できるような株主になれるからです。
TOBプレミアムは、持ち分が増えるほど強くなる株主の権利で説明されます。
① 株価は、通常は持ち分比率1%以下のひとたちが市場で取引する価格
② 株主の権利は、持分が増えればより強い権利になる
③ より強い権利には、より高い価格が求められる
④ TOBをする場合、通常は経営権(50%以上)の取得を目的とする
⑤ 経営権(より強い権利)を取得するには株価に上乗せ分が必要
ポイント②TOBプレミアムの種類
下に伊藤忠の直近のTOBプレミアムを記載しました。
TOBプレミアムは、TOB実施前日、TOB前一か月平均、3か月平均、6カ月平均から何%あがったかで計算します。
伊藤忠のTOB事例を見ると、
①もともと50%以上株を保有していたケースと、
②TOB前は50%以下だったケース
の二種類があります。それぞれプレミアムの水準はどのようになっているでしょうか?
大建工業買付のように、もともと50%以下→経営権(50%)を獲得する方がプレミアムが高い
TOBにより、もともと50%以下だったところから50%以上を取得する場合にはTOBプレミアムは高くなります。これは会社の経営権(50%超)を新たに取得したことに対する対価と考えることができます。
一般的なプレミアムの水準を下回るようなTOBには、TOB対象会社の経営陣としても株主に推奨できないし、もし推奨した場合には後日株主からもっと高い価格を目指して交渉しなかったことにたいする責任を追及される可能性もあります。
ポイント③巨大企業も従うTOBプレミアムの水準(※大建工業へのTOB)
大建工業のTOBプレミアムに関する交渉経緯を見ると、伊藤忠といえどもTOBプレミアムの市場水準に屈する形となっているのがわかります。
大建工業のTOBプレミアムを巡り伊藤忠から提案があった株価の推移は以下のとおりです。
伊藤忠からの買取提案に対して、大建工業は引き上げを求め続けました。
<第1回提案(2023年6月14日)>
伊藤忠提示:2,450円、大建工業:価格の再考を要求。具体的な価格提示無し
<第2回提案(2023年6月20日)>
伊藤忠提示:2,700円、大建工業:価格の再考を要求。具体的な価格提示無し
<第3回提案(2023年6月30日)>
伊藤忠提示:2,800円、大建工業:価格の再考を要求。具体的な価格提示無し
<第4回提案(2023年7月12日)>
伊藤忠提示:2,900円、大建工業:3,200円を要求
<第5回提案(2023年7月18日)>
伊藤忠提示:2,950円、大建工業:少なくとも3,000円を要求
<最終合意(2023年7月24日)>
最終的に3,000円で妥結(TOBプレミアムは30%)
大建工業ではプレミアム30%で最終妥結
この交渉の経緯を見ると、
<大建工業の思惑>
・伊藤忠提示価格では株主が納得しない
・低い価格で妥結するとあとで株主から訴えられる可能性もある
・少なくとも市場共通認識である30%を要求しよう
<伊藤忠の思惑>
・あまりに高い価格で買うと株主から訴えられる可能性もある
・可能な限り低く買いたい。刻んで価格を出して大建工業の反応を見よう
・交渉も長期化してきた。情報が洩れて株価があがってはたまらない。
・TOBプレミアム30%というのは一般的な水準だ。株主にも説明できる
という双方の思惑が交錯していたことが推察されます。巨大企業であっても、経営権取得時はTOBプレミアム30%の水準には従わざるを得ない(買いたたくことはできない)、ということですね。
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